自分で「つくる」と決めたものを、時間も忘れるほどに没頭して創作するとき––。
何度も壁にぶつかりながらも、試行錯誤や挑戦を楽しみ、その壁を乗り越えていくとき––。
そんな時間は、私たちに、大きな成長と充実感をもたらしてくれるものです。
たとえば、クリエイティビティ研究領域で、もっとも権威ある体系的学術書の1つである『The Cambridge handbook of creativity』で、ルース・リチャーズ(セイブロック大学大学院、マクリーン病院、ハーバード大学医学部)は、次のように主張しています。
< 筆者訳 >
もし、私たち人間が、日々の生活における創造性(Everyday Creativity) ― つまり、毎日の暮らしの中での独創性 –– が、どれほどまでに私たちに良い影響を与えているのかを知ったとしたら、それをもっと価値あるものだと見なすだろうか?
たとえば、それが私たちの身体的・肉体的な健康を向上させ、免疫機能を強化し、さらには、人生により深い満足感や意味づけを与えてくれることを知ったとしたらどうだろうか。
事実、それらの効果や、それ以上の効果を裏付ける証拠がある
– ルース・リチャーズ(セイブロック大学大学院、マクリーン病院および、ハーバード大学医学部)< 原文 >
One may ask: Would we humans value everyday creativity more – the “originality of everyday life” – if we knew how much it could do for us, for example, improve our physical and psychological health, boost our immune function, and give us greater life satisfaction and meaning? In fact, there is evidence for this and more
– Richards, R. (2010). Everyday creativity: Process and way of life—Four key issues. In J. C. Kaufman & R. J. Sternberg (Eds.), The Cambridge handbook of creativity (pp. 189–215). Cambridge University Press. https://doi.org/10.1017/CBO9780511763205.013
私たちの日々の生活に創造性を取り入れることは、心や体の健康を助け、人生に深い満足感や意味づけを与えてくれると言うのです。
このように、人生を楽しく、健やかなものにすることを支えてくれる創造性ですが、私たちの誰もが、その恩恵に与ることができるのでしょうか?
私たちの誰もが、日々の暮らしのなかで創造的な時間を過ごすことができるのでしょうか…?
もしかすると、「創造性」とか「クリエイティビティ」と聞くと、「選ばれし天才だけが許される特別な領域」というイメージがあるかもしれません。あるいは、アートやデザインの話だと思う人もいるかもしれません。
わたしたちは、この考え方には、賛同しません。
創造性は、決して、一部の限られた人だけのものではなく、誰もが持ち合わせている能力です。
クリエイティビティは、決して、アートやデザインだけのものでなく、科学的な探求、チームで行うプロジェクト活動、さらには、ちょっとした遊びの中でさえ発揮される能力です。
そして、このように誰もが日常を創造的に生きることは、その人の人生を充実させ、楽しさや意味づけを与えるだけなく、心や体の健康にまで良い影響があると主張する研究者がいることは、すでに説明したとおりです。
また、わたしたちの一人ひとりが、日常を創造的に生きることは、結果的に、社会の発展や豊かさ、持続可能性などにも貢献することにつながるでしょう。
このようなことから、わたしたちは、創造的な活動に着目しています。
出来上がった作品(絵、音楽、演劇、動画、本、論文、設計図、製品、建築物、アプリやサービス、さまざまな体験・経験 などなど)に宿るクリエイティビティも、とても大切で尊いものです。
ですが、わたしたちは、作品に宿る創造性以上に、その作品をつくりだすまでの過程で、実際に創造に向き合う営みに着目しています。
なぜならば、創造的な作品は、それをつくり出すための創造活動がなければ、絶対に誕生しないからです。
創造を目指して活動したとしても、必ずしも、創造的な成果を生み出せるとは限りません。しかし、それでも創造を実践しなければ、志した創造が成就することはありません。(Corazza, 2016 の議論が参考になります)
さらに言えば、たとえ成果につながらなくても、創造的な活動に取り組むことは、成長や充実、人生の意味づけ、さらには心や体の健康面にまで良い影響があるとされていることは、繰り返し説明してきた通りです。
だからこそ、わたしたちは、それを望む誰もが、躊躇なく、思い切り創造に取り組める社会を夢見ています。
そして、そのような個人と集団のあり方(Ways of being)を、『創造的文化(Creative Culture)』と名付けることにしました※。
また、創造的文化をつくることを支援するツールとして開発を目指しているのが、『創造的文化モデル(Creative Culture Model : CCM)』です※。
創造的文化モデルについての詳細を知りたい場合は、こちらに掲載の文献が参考になると思います。
Point.2 : 創造性は選ばれし者の特権ではなく、誰もがクリエイティブな時間を過ごすことができる。
Point.3 : それを望む誰もが、躊躇なく、思い切り創造に取り組むことができるような個人と集団のあり方が創造的文化。
Point.4 : 創造的文化を育む支援をするためのツールが創造的文化モデル(Creative Culture Model : CCM)
※ 野口(2024).創造的文化モデルの仮説提案―創造人口の増加を目的とした工学モデル開発を目指して―.日本創造学会 第46回研究大会論文集, pp.22–29.
